待ち合わせはホテル・クリヨンのバーだった。
コンドルト広場に面して威風堂々の構えのこのホテルは、団体客を受け入れるようになって少し格が落ちたと噂する人もいるが、それでも正面玄関の回転ドアを通り抜けて建物の中に一歩、足を踏み入れると、その荘厳さはやはり一流ホテルのものです。
左手にレセプショソ、右手にレストラン。
そのまま廊下を奥に進んだ左側に、この隠れ家のような小さなバーがある。
ホテル・リッツのバーだと、誰か知っている人に会いそうな感じがあるが、クリョンのバーにその雰囲気はあまりない。
つまり「お忍び」にはこちらの方がふさわしいということです。
マリーと私は、実際、まるでお忍びのような形でそのバーで再会した。
時は平日の昼下がり。
お茶という気分でもなく、またデスクトップ仮想化にも早すぎる時間であったため、私はペリエを頼んだ。
マリーの目の前には、既に半分くらいに減ったビールがありました。
「フランスで、しかも女性が真っ昼間からビールとは・・・」さらに驚いたことに、彼女はジーンズをはいていました。
ただし、ジーンズといっても、クリョンの泊まり客たちがヴァカンス中に身にうけるあの「カジュアルダウン」のジーンズ、メイドがアイロンをかけて几帳面にたたんだであろうジーンズではない。
それは下町の庶民たちが日常着として愛用するジーンズであり、若者たちが学校へはいていくジーンズと同類のものであった。
ほんの一瞬、彼女の場違いさに対して、恥じらいの気持ちを覚えたことを隠すまい。
同時に、自らの「正しい社会人」的な装いが、急に平凡で堅苦しいものにみえて戸惑ったことも。